意見陳述要旨

平成19年2月20日


第3 原告目黒勝喜(VI−13)

 私は子供の頃から喘息があり毎年、春と秋(季節の変わり目)には、喘息発作をおこしてました。家族や親戚は大人になればなおるのであまり心配しないほうがいいよとも言われていましたがなかなかよくならず、治療のために診療所への通院は続けていました。
 それでも中学校に入学して以後は、余り目立った発作もなくなりました。
 そして昭和44年4月に千葉県八日市場市にあったツクモ電業社というところに勤めていた10ヶ月間は今から考えると夢のような話で、通院などは一度もせず喘息患者であることを全く忘れていました。このとき私は喘息は治ったと思っていました。

 しかし、昭和45年2月、荒川区西日暮里にあった福田自動車工業に勤めるようになった頃から、また喘息発作に悩まされて、時々菊坂診療所に通うようになってしまいました。そんなある日、診療所の大月先生が「診療所では、地元より職員を採用し、レントゲン技師を養成したいと思っている。ついては君を採用し、あわせて君の喘息の治療もするようにしよう」と言ってくれました。「レントゲン技師になるための勉強も出来て、喘息の治療までできるなんて、まるで夢のようだ」と大喜びをして、入所を決意しました。このようにして、私は昭和56年から菊坂診療所でレントゲン技師を目指して勉強を始めるとともに、医療事務に従事するようになりました。

 ところがどうしたことか、菊坂診療所に入所後かえって症状が悪くなってきてしまったのです。年4〜5日は喘息発作のため仕事を休むようになり、昭和50年頃からは毎日のように喘息発作が出るようになってしまったのです。ただ幸いであったのは、喘息発作が出たら直ちに対応してもらえた点で、お陰で大事に至ることはありませんでした。
 「どうして菊坂診療所に入所後かえって症状が悪くなってしまったのか」と言う点について今から振り返ってみると、職場の地域環境の悪さに行き着いてしまうように思われます。菊坂診療所は、白山通りに面しておりましたが、この白山通りは車の通りが多く、思わず顔を背けたくなるような黒鉛がもうもうと立ち込めるようなこともしばしばあるような場所にありました。

 私は長く喘息発作に悩まされ続けてきました。喘息発作に襲われたときの苦しみは、経験した方でないと中々お分かりいただけないかもしれませんが、本当に死んだ方がましだと思ってしまうほどです。
 ひどい喘息発作に襲われると、朝から寝床でじっとしているしかありません。寝床に居ても、苦しくて仰向けで寝ていることができません。布団の上で壁に立てかけた枕を背にして、座位のままじっとしているしかないのです。新聞を読むこともできませんし、テレビをつけていても殆ど見ることはできません。 口に入れるものと言えば、精々水を飲む程度で、食事もろくろく喉を通りません。一日24時間を、ひたすら喘息発作の苦しみに耐えるだけに費やさなければならないのです。
 そして発作がひどくなってチアノーゼ状態になってしまったため、真夜中に妻を起こし、タクシーを呼んで、都立墨東病院へ担ぎ込んで貰ったこともありました。そのような時は、病院で一晩中点滴を打って貰って、症状が治まる朝方になってようやく家に帰り着き、やっと睡眠をとることができました。

 こんな時でも、喘息患者だとバレると会社を馘になるのではないかと怖くて本当のことが言えず、会社には「風邪を引いたのでやすませてください」と嘘をついて休んでいました。こんなことがしばしばあり、会社からは「よく休む奴だ。どうしてそんなに休むんだ」と嫌味を言われても、いつも「すいません」と謝り続けてきました。
 しかし、平成17年、本件裁判の原告に加わることになって初めて会社にも気管支喘息の患者であることを明言することができるようになりました。それまでの日陰の身分のような日々は、思い出すだけでも辛いものがあります。

 今私は、友人の紹介で入社した医薬品の卸業の会社で、車でのルートセールスの仕事に従事し、お得意先を回っています。そんな折、信号待ちなどでダンプ等ディゼル車の後ろにつくと息苦しくなります。そのような時はメプチンの吸入を使いますが、それでも発作がおさまらず、近くの開業医さんに飛び込んだときもありました。今ではメプチンの吸入は手放せなくなり、常時お守りのように携帯しています。たまに忘れたときなどは、妻に会社の近くの駅まで届けて貰うこともあります。

 このように私の生活はぜん息と切っても切れない辛いものになってしまいましたが、このような生活は私だけでたくさんだと思います。東京から青空を奪った自動車メーカーなどにはきちんと責任を取って貰うとともに、国や東京都には、私のような公害患者がこれ以上増えないような対策をとって貰いたいと切にお願いして、私の陳述とさせていただきます

以上

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